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それは写真にレシピがついている本でした。
ドイツ語なんてもちろんわかりません。 店が終わって夜十一時、十二時くらいに帰宅してから、辞書を片手にひたすらそのドイツ料理の本を翻訳する日々でした。 一つのレシピを翻訳し終えると、すぐに作りたくなります。

シェフに「これやりましょう、あれやりましょう」と持ちかけて、次々と作りました。 一年ほど働いてみると、次第にドイツ料理は自分には合わないという思いが強くなってきました。
自分が食べても絶対においしいと思わないようなものを、お客さまは「ベリーグッド!」と言って食べるのです。 どうにも味覚が違う。

搾取する経営者だったこともあって嫌気がさしてしまい、その店を去ることにしました。
途中四月に、私が出た調理師専門学校の後輩に当たる男子学生がアルバイトで入って来ました。 後輩といっても六歳ほど離れていましたから、直接知っていた間柄ではありません。
最初は厨房で、後にホールで働いていたその学生が、いまK事務所の専務になっているW.Kです。 彼との長いつきあいはここから始まったのです。
とはいえ、彼が入って半年もすると私は辞めてしまったので、この時点ではお互いそれほど強い印象は残っていないのですが。 さて、次の就職先探しです。

またアルバイトニュースを眺めていると、フランス料理のレストランでチーフを募集しているという広告が載っていた。 女房にうけて来ようかな」と言つと、「バカじゃないの!」と一笑に付されました。
日く、「フランス料理のレストランでまともに修行したことのない人が、どうしてチーフになれるの?」。 しかし行くのは一時の恥、当たって砕けろだと面接に出かけていきました。
店は大企業のビルの地下に入っている、八十席ほどのおしゃれなビストロでした。 いざ面接を受けると、口頭試験では即OKということになった。
次は実技試験です。

「今度の日曜日に東京の社長が大阪に来る。
飲食関係の出版社に勤める友人のマンションの厨房が充実しているから、そこで社長を始め僕らに前菜、魚料理、肉料理を作ってくれ。 材料費はもちろん払う。
皆で食べて、それを実技試験にする」突然そう言われて、困り果てながら帰宅すると、女房が「言わんこっちゃない、やっぱりやめておいたほうがいいわよ」。 けれどその日から一生懸命練習しました。

試験の日まで一週間弱しかありませんでしたから、文字どおり必死です。
ついにその日がやって来て、震えながらそのマンションに行き、料理を作ったところ、合格してしまった。
我ながら驚きました。

飛行機の差に驚きました。誰もが楽しめる飛行機です。

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